ロボコンでの設計の話 in 電通大ロボメカ

この記事はUEC Advent Calendar 2022 - Adventarおよび学ロボ Advent Calendar 2022 - Adventarの15日目の記事になります。

学ロボアドカレの前日の記事はありませんでした。 電通大アドカレの前日の記事はSugiyamaさんによる「アジャイルで本気でアプリ作ってみた」でした。ロボット製作は基本的にウォーターフローモデルに近いと感じていますが、試作段階ではアジャイルに近い体制が見られるような気がします。シーズン中をアジャイルで駆け抜けるには膨大な資金・人・技術力が必要になってしまうため、それらのリソースが莫大なチームか、ハードの部分が少ないソフトウェア開発ならではの体制で新鮮に感じます。

www.team411.jp

はじめに

導入が長いです。私やロボメカ工房については知ってるよ〜という方は本編まで飛ばしちゃってください。またこの記事はあくまで初めて大型ロボコンの設計を担っている若僧のひとりごとです。

自己紹介

こんにちは、現在絶賛ロボコンシーズン中 uec21の Lazuly (@Lazuly_tech)です。現在ロボメカ工房NHKロボコン部隊にて機構班長を担っており、2023年6月4日に行われるNHK学生ロボコンに向けて機体の設計をしています。 本日12月15日の17時はちょうどそのエントリーシートの提出期限です。現在(12/14 23時ごろ)書き終わってなくてめっちゃやばい。(12/15 17時追記 無事提出・受理されてエントリーが完了しました!)

今回は初のアドベントカレンダー企画参加になります。Qiita等で見ていて憧れのような気持ちがあったので、参加できて嬉しく思います。カレンダーを作成していただいた主催のニー子さん、Emileさん、ありがとうございます。

ロボメカ工房 NHKロボコン部隊の紹介

本題に入る前に、私たちロボメカ工房およびNHKロボコン部隊の紹介と宣伝をさせてください。

ロボメカ工房は情報工学工房・電子工学工房などと同じく、電気通信大学の「楽力教育」プログラムの一つとして、ロボット製作を中心としたサークル的活動を行っている団体です(学友会傘下ではなくII類の中。調布祭ではのびのびできてとてもよいぞ〜)。ただし他の工房と違って単位はもらえません。だからと言って気軽に消えて良いというものではない。ちなみに来年度の代表は私の予定です。新歓担当でもあるのでその機会があればよろしくお願いします。

そんなロボメカ工房には2022年度現在5つの部隊があり、各部隊それぞれ別のロボコンや目標に向けて活動しています。私たちのNHKロボコン部隊は名前の通りNHK学生ロボコンへの出場をいる部隊です。実は過去には8回の出場経験があり最高成績はベスト4のチームでしたが、2015年大会のロボミントンでベスト8・企業特別賞を獲って以来忽然と表舞台から姿を消し、(中止になった2020年を除く)2022年大会まで6大会連続で2次ビデオ審査で落選をしています*1

2023年大会はというと現在進行中で、下のような予定になっています。

  • 2022年8月21日 ルール発表
  • 12月15日 エントリーシート提出期限
  • 2023年2月下旬 1次ビデオ審査
  • 4月下旬 2次ビデオ審査
  • 5月上旬 出場チーム発表(2次ビデオ審査の合否発表)
  • 6月4日 NHK学生ロボコン2023 (@太田区総合体育館)
  • 8月27日 ABUロボコン2023 (@カンボジア・ブノンペン)

今シーズンはいつものように2次ビデオ落ちにならないよう言葉だけでなく製作面・運営面どちらも改善し、例年よりもハイペースで製作が進んでいます(他大学からするとこれが普通どころかまだまだ遅いのだが)。8大会ぶりの出場&決勝トーナメント進出を目標にしています。制御・回路も前シーズンから引き続き大きく成長し、自称「今一番伸び盛り」のチームです。何にチャレンジしても楽しいチームです。ぜひ応援(とチーム見学&加入)よろしくお願いします。興味があれば私に連絡ください。

この1年半前のツイートが実現しそうになっている今日この頃(これの技術基盤はほぼ完成)。この通り伸び盛りです。ぜひロボメカ工房NHK部隊をよろしくお願いします。


前置きが長くなってしまいました。そろそろ本編に入りましょう。

本編

この記事を書いたきっかけ

焦りです。決してアドカレで何か書かなきゃということではないです。 「ソフトの使い方を教える」などではロボットの設計については引き継が成り立たず、制御や回路とは異なりモノの保持をしても意味がなく、経験に基づく感覚的なものや知識を持って設計できる人が必要であると感じたからです。 「またできる人が現れるのを待てばいい」ではチームに持続性がありません。

文字に起こしながら整理をすることで何か上手な引き継ぎ方や教え方を掴めないかなと考え、このテーマで記事を書くに至りました。今回は課題研究と新人大会 F3RCに続き3度目の設計中とまだまだ若僧ではありますが、私なりの考えを綴ります。

「設計ができる」とは

ロボット製作の手順

私たちのチームのロボット製作手順(予定)を紹介します。チームの環境次第で適した方法は変わり、私たち自身もこれからの調子次第ではこの予定が変わる可能性もあります。

  1. ルールが出たら話し合い、作戦とロボットの大まかな役割を決める

  2. (ここから機構のことに絞ります)
    役割を満たせる機構の動きを決める

  3. 動きを満たせるようにスケッチ等を描いて概形を決める

  4. CADで設計する

  5. 加工してモノに起こして動かしてみる

  6. 反省。4に戻る

そもそもなぜ設計をするのか

手戻りを減らすためが最も大きい理由であると考えています。 ロボットを製作するにはアルミ角パイプや金属・樹脂板、ネジ類などを消費します。手戻りが起きてしまうとそれらの材料が無駄になってしまったり、買い足すためにお金もかかります。また、再設計と加工をするにもさらに時間がかかります。

ロボコンは1年未満の期間での開発が求められ、お金も有限であるため、機構部分の手戻りが命取りになってしまうでしょう(なお十分なリソースがあれば影響は少ない)

また図面などで細かい寸法や全体像ができていると加工へ受け渡すのが容易になったり、チームとしての目標となりモチベーションを保つ手段になったりすると思います。

設計の前準備

いきなり形を決定させることは難しいため、設計の前には調査や試作などで準備をすることが多いです。

調査は、似た動きの機会やロボコンを参考にしようと調べることです。ネットや本を漁ったり、自チームの過去の機体を探ることで様々なヒントを探します。

試作は、感覚的にでも部品を組み合わせてロボットの一部分を作ってみる作業です。調査するだけよりも確実な動作につながります。 強豪校では数百万円とも言われる資金や、膨大な人数と高専ロボコン出身の技術力を合わせて多数の試作をし、設計に移しているようです*2。なのにさらに超短期間での再設計を連発しています。怖い。怖すぎる。

一方私たちにはそのように多大な資金はなく人数も技術力も芳しくないため、試作よりも調査に重点を置くことで、失敗のリスクを冒してでもロボットを完成させようとしています。(新人大会で試作重視の立ち回りをしましたが、各機構試作を繰り返すことはなく完成も大会当日に……。)

「CADが操作できる」と「設計ができる」の違い

部品点数や拘束条件が増えていくと、紙に描くだけでは関係を把握しづらくなっていきます。紙に描くと仕様変更があった際に描き直しになる場合があるため、CADを使用して設計をしています。ただタスクを達成できるだけでなく整備性をよくしたり、見栄えをよくしたりするなどの工夫も加えやすくなります。また3Dモデルの材質(マテリアル等)を設定することにより加工を待たずにおおまかな質量を確認できたり*3、CNCやレーザ加工機の加工データを簡単に製作できたりします。というか様々な加工機を使うことが多いのでCADを使わない方が損です。

しかし、CADを操作してモデリングをし、3Dプリンタで出力する といったことができる人はそれなりにいるのですが、モータからカップリング、ベアリングまでを選定してロボットの機体全体の設計ができる人はそれに比べるとごく少数であると感じます。私たちのチームでは今年からFusion 360を使用していて、加入前から使用経験のあるメンバーもいるのですが結局CADでの設計は私一人……
(ちなみに機構の案出しは複数人で行っています。)

CADの操作ができることとロボットの設計ができることは同値ではないのです。

設計ができるようになるには

CADの操作ができる、材料力学を授業でやっているなどと言っても設計ができるというわけでもありません。本編冒頭で言及した通り、設計は知識と経験で成り立っています。

知識

並行リンク・往復スライダクランクのような機構の知識、モータ・ギヤ・タイミングベルトのような部品の知識など、必要な知識は多種多様です。材料力学・機械力学の授業は抽象的なため役立ちにくいですが(設計時に使わなくはないです)、先輩から話を聞く限り機構要素設計の授業は直接役に立つと思います。まあ私は基礎演習Aを落単していてその授業が受けられないため評価はできませんが。

機構の知識

想定している動きを実現させるためには機構を考える必要があります。その機構全体の動きが派手であっても基本は単純な機構から成り立っている場合が多いです。その「単純な機構」には並行リンク機構、往復スライダクランク機構、タイミングベルト、ラック&ピニオンによるものなどが挙げられます。私は小学校時代から技術の教科書の機構がまとまっているページが大好きでよく眺めていました。今では普通にスマホが自由に使えるので、たくさんの機構がまとめられているWebページ「からくりすと」を眺めています。

karakurist.jp

(チェビシェフリンク? テオヤンセン?いや使う機会なんか無いだろそんな機構……)

このページに載っているものなどが身の回りで適用されている様子を見るのも良いことです。フォークリフト、クレーン、トラック、ダンパーなど……

部品の知識

機構もフレームもねじも全ては部品、つまり部品の知識がなくては何もできないのです(機構の形次第な気もするのですが、卵が先か鶏が先か論争……)。 大体の部品はJIS・ISOに従っているのですが、その大元の規格よりも部品の名前・形・役割を覚えます。どれかを覚えていれば他人やGoogle先生に尋ねれば理解されます。

選定・購入にはミスミやモノタロウを使用することが多いです。ミスミのECサイトは特に部品の絞り込みがしやすく、部活動・サークルには「ものづくり支援」もあるので重宝しています。このミスミのECサイトにはWebカタログがあるので、これをペラペラめくりながら部品の名前・形・役割を覚えていきます。細かい型番を覚えるのではなく、役割が似た部品の用途の違いに注目して関連づけて覚えると実用性が高いでしょう。例えば、ギヤ・タイミングベルト&タイミングプーリ・ベルト&プーリそれぞれの特徴と使い分けなど。

MISUMI(ミスミ) | 総合Webカタログ

デジタルカタログ | MISUMI(ミスミ)

「FA用メカニカル標準部品」の2巻分は目を通すべし

経験

知識知識といっても使ったり、使っている現場を見たりしないと覚えられるわけがありません。

経験こそ、命。

大会に出る

大会のために実際に製作し、失敗と成功を繰り返すのが最も身に染みる方法であると考えています。痛い目見ると悔しいですが育ちます。来年度の弊チーム新入部員はメカダービーでものづくりを体験した後、F3RC関東春ロボコンに出場してもらう予定です。

他人の製作物を見る・質問する

Twitterをすべし。交流会に行くべし。Maker Faireに行くべし。それらの場所のように他の団体の人と関わる機会に参加し、製作物を囲んで話し合うことで新たな気付きや着想を得られます。

説明する

自分の設計を理解して改善するためにも、そして他人の製作物を経験として吸収するためには説明することが有効であると考えています。写真、発言、ツイートなどをかき集めて説明をして噛み砕きましょう。

設計に大切なこと

説明は反芻の機会であり、説明したことは自分の選択肢として手元に残ります。カタログやサイトを漁り知識をつけてから説明することで選択肢を増やすこと、そして設計を繰り返しその選択肢を適切に選ぶことができるようになるまで経験を重ねることこそが設計に重要なことであると考えています。

おわりに

自分語り

ポートフォリオサイト Lazuly's Page にあるように私は多数ロボコンに参加していますが、それだけでなく他人のロボットを観察して質問し、説明することで成長してきたと感じています。

真面目な設計に触れたのは、SAKURA Tempestaにて雨桜に関わったときです。「恐ろしかった」と評価された1部品*4しか設計していないものの、完成披露会では機体の説明をしていました。あの場には保護者もいたため、部品1つ1つというよりも機構の動きに注目した説明をしていました。聞き手の構成次第で話す内容を変えるのも大事。
最近では学ロボの交流会に行くのは大体pizac先輩と私であるため大学に戻ると写真を見せたりしながら他のメンバーに紹介する必要があります。説明の時間です(他のメンバーももっと来ればいいのに)。この場合は聞き手に知識があり時間もたっぷりあるため、作り方や部品まで注目して話します。

説明することは技術をつけていくこと以外にも様々なことに活かせると思います。私もプレゼンテーションが高校入学時より何倍も上手になったと感じています。

設計って曖昧なもので

ここまで話しておきながらまだ厄介な問題があり、「ロボット製作の手順」は説明の都合上無理やり分けたもので、明確な遷移のタイミングがないという点です。このタイミングについて立崎さんと話したことがあるのですが、「なんとなく」「(使う部品も)自然と決まってくる」とのことでした。おいおいマジかよと思いましたが、自分の設計ノートを掘り返してみるとどこまでスケッチしてCADに移っているかがものによって異なっていることがわかりました。

オムニユニットの設計SwerveDriveの設計

1枚目はオムニホイールを用いた足回りの設計スケッチです。ずいぶん適当にフレーム・ホイール・モータの位置を決めています。
対する2枚目はSwerve Drive (独立ステアリング機構)の駆動輪部分のスケッチです。こちらはギヤの歯の枚数や使用モータも決めて、大まかな距離まで書き入れています。なんなら強度計算もしていますね。

部品点数や拘束条件の数の違いが影響している気がします。正直私にもわかりませんが設計してみたらなんとなくわかると思います。ひとまずSwerve Driveの設計をしてみましょう(適当)。

設計中のステアユニット

ちなみに上のステアユニットは都立大のフジータさんの取り外し可能なユニットを参考にしています。交流会やTwitterでのやり取りで色々と調査を重ねました。

今後の取り組み(勝手に考えているだけ)

これを踏まえてチームの設計者を育てていくために、講習の一環として「設計ガチゼミ」たるものを設けようかなと思っています。設計に興味があるメンバー向けに、各自が他の団体のNHK学生ロボコン高専ロボコンの機体を調べてまとめ、スライドで発表するというものです。大会の実践に加えて説明をすることによって、より知識を増やしていこうという算段です。真似をしてCADに起こしてみると新たな学びが得られるのではないでしょうか。

やっと〆ます。 長々とした記事をここまで読んでくださりありがとうございました。結論がいまいちまとまらないまま記事を終わらせてしまいますが、それくらい設計は創造的な行為だということではないでしょうか。最近OpenAIのChatGPTが対話形式でコードを書いてくれるというのが話題になっていますね。部品選定時に重量・大きさ・値段などを突き詰めると無限に時間がかかるのでAIがやってくれねぇかなぁ〜〜なんて感じますが、流石に無理な気がします。でも絵も描けるからできるようになるのかな、ラーメンはどんぶりから直で吸って食べるけど。設計は圧倒的にAIに取られにくい職だと思うので、できたら生成できるようになってほしくないです。

最後に

何が何でも2024年大会までに本戦に出場します。応援よろしくお願いします。

明日の記事

電通大アドカレ16日目はつまみさんの徒歩記事です。さすがまた歩いてるな

学ロボアドカレ16日目は東北大 T-semiの学ロボリーダー・溜雑さんのCAN通信についてです。わあいCAN、らずりCAN大好き。私自身FRCのSPARK MAXをはじめとしたモータドライバに憧れて去年はCAN対応MDを作成していたこともあり、とても楽しみです!

長い記事を読んでくださりありがとうございました!

*1:Wikipedia NHK学生ロボコン https://ja.wikipedia.org/wiki/NHK%E5%AD%A6%E7%94%9F%E3%83%AD%E3%83%9C%E3%82%B3%E3%83%B3

*2:豊橋技術科学大学 ロボコン同好会 ご支援のお願い https://tutrobo.rm.me.tut.ac.jp/support/

*3:「ロボット2台やコントローラ等の合計重量は50kgまで」というルールがあるため、常に重さを意識している

*4:https://twitter.com/Lazuly_tech/status/1589635071895486464